企業法務の自習室

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金融法委員会の「金融商品取引法第21条の2に係る解釈論の整理」が公表されました

旬刊商事法務2128号(3/15)には、金融法委員会の「金融商品取引法第21条の2に係る解釈論の整理〔下〕 -損害額の算定方法ー公表概念と他事情の範囲ーを中心としてー」が掲載されています。

 

 金融法委員会とは、日本銀行が事務局をしており、金商法分野における著名な法学者と弁護士を委員とする団体です。設立時の代表は、神田先生と和仁先生なのですね。

 

今回の金商法21条の2に関する報告は、こちらのウェブサイトで全文を読むことができます。

http://www.flb.gr.jp/jdocument.htm

 

金商法21条の2の損害論に関する複雑な解釈問題をわかりやすく整理して下さっており大変勉強になるものなので、内容をメモりました。なお、このブログは「自習室」なので、メモは我流である点にご留意下さい。

 

1. 21条の2にいう「虚偽記載等・・・により生じた損害」及び「虚偽記載等によって生ずべき当該有価証券の値下がり」の意義

 

立案担当者の見解:損害=仮に虚偽記載等がなされていなかった場合の価格を想定した場合の想定価格と取得価格の差額(取得時差額)。よって、推定額に取得時差額以外の損害額が含まれている場合には、5項及び6項の減額対象となる。

→減額幅は結構大きい。

 

ライブドア最高裁判決:損害=虚偽記載等と相当因果関係のある損害をすべて含む。よって、5項及び6項の減額対象となるのは、虚偽記載等と相当因果関係の認められない損害額だけ。

→減額幅は、相当因果関係の有無で決まる。

 

2.他事情の範囲に関する裁判例の内容

 

ライブドア事件最高裁判決:家宅捜索、報道、経営陣の逮捕、監理ポストへの割り当て等はすべて相当因果関係あり。

 

アーバンコーポレイション事件:民事再生手続開始の申立ての事実による値下がりは、他事情値下がり。それ以外も含まれている可能性があるので原審差し戻し。

 

オリンパス事件:東京地裁は、結論としてマーケットモデルによる取得時差額の算出を認めず、その他事情として2割減額。

 

IHI事件:虚偽記載の公表日に同時に公表された業績予想の下方修正の事実は、他事情に該当するとして5割減額。

 

3. 他事情に関する判断基準の検討

 

虚偽記載やその公表に「起因する」事情は他事情に該当しないという理論構成がある。

これに鑑みると、「上場廃止」「虚偽記載等が発覚したことによる信用毀損」「関係者の逮捕や強制捜査」は、虚偽記載等に起因するといえ、「業績予想、他の開示書類における虚偽記載」は起因するとは言い難いのではないか。

 

虚偽記載等により「隠ぺいされていた」か→アーバンコーポレイション事件だけではまだ分析しづらい。

 

〔熊谷 真喜〕