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企業法務の自習室

企業法務に関連する情報を発信しています。

会社法452条にいう「損失の処理」の意味

会社法452条は、「株式会社は、株主総会の決議によって、損失の処理、任意積立金の積立てその他の剰余金の処分(前目に定めるもの及び剰余金の配当その他株式会社の財産を処分するものを除く。)をすることができる。」と定めています。しかし、この「損失の処理」については会社法や会社法計算規則に定義があるわけではありません。

 

 「欠損の額」については、分配可能額がマイナスの場合の額、という定義がちゃんとあります(会社法309条2項9号ロ・449条1項2号、会社法施行規則68条、会社計算規則151条)。なお、分配可能額がマイナスの場合、を表現するために、以下のような定め方をするところが、なんというか会社法文学という気がします。これ、普通の人が読んでも意味はなかなかわからないですよねえ。

 

(欠損の額)

第68条 法309条第2項第9号ロに規定する法務省令で定める方法は、次に掲げる額のうちいずれか高い額をもって欠損の額とする方法とする。

一 零

二 零から分配可能額を減じて得た額

 

つまり、分配可能額がプラス100円の場合には、「0-100=-100」であり、-100と0を比較すると0のほうが高い額だから、この場合には欠損は0である(つまり欠損はない)とするためにこのような規定なのですよね。ややこしい。

 

話を戻して、「損失の処理」には定義がないので、損失とは何か、どの金額までなら剰余金を取り崩すことが認められるのか、よくわかりません。これについて立案担当者は、以下のように説明しています。

 

この処理に関しては、会社計算規則上は、明示的な規定が設けられておらず、それぞれ減少または増加させることが適切である場合として、会社計算規則50条2項3号と52条1項3号の組み合わせにより、会計慣行上、許容される場合に限り、認められるものとして整理されている。このような取扱いにされた理由は、表示上の処理は、会社法の計算に関する規律を考える上では、特に意味のある処理ではないためである。

 

(郡谷大輔=和久友子編『会社法の計算詳解<第2版>』281頁(中央経済社,2008))

 

会社法の計算詳解―株式会社の計算書類から組織再編行為まで

会社法の計算詳解―株式会社の計算書類から組織再編行為まで

 

(ちなみにこちらの本、第2版はアマゾンだと出てきません・・・・。)

 

企業会計基準にお任せ、というところでしょうか。

 

そこで企業会計基準をみると、「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」の60~61項では、以下のとおり述べられています。少し長いですが引用します。太字下線は私が付しています。

 

60. 従来、資本性の剰余金と利益性の剰余金は、払込資本と払込資本を利用して得られた成果 を区分する考えから、原則的に混同しないようにされてきた。平成 13 年改正商法において、 資本金及び資本準備金の額の減少によって生ずる剰余金が配当可能限度額に含められるこ ととなったが、この資本性の剰余金を利益性の剰余金へ振り替えることの可否についての定 めはなかった。また、会社法においても、資本金及び資本準備金の額の減少によって生ずる 剰余金は分配可能額に含まれることとなる。ここで、資本金及び資本準備金の額の減少によって生ずる剰余金を利益性の剰余金へ振り替えることを無制限に認めると、払込資本と払込資本を利用して得られた成果を区分することが困難になり、また、資本金及び資本準備金 の額の減少によって生ずる剰余金をその他資本剰余金に区分する意味がなくなる。したがって、平成 13 年改正商法及び会社法における配当に関する定めは、資本剰余金と利益剰余金の混同を禁止する企業会計の原則を変えるものではないと考え、資本剰余金と利益剰余金を混同してはならない旨を定めることとした。

 

61.この考えに基づくと、資本剰余金の利益剰余金への振替は原則として認められない。ただし、利益剰余金が負の残高のときにその他資本剰余金で補てんするのは、資本剰余金と利益剰余金の混同にはあたらないと考えられる。もともと払込資本と留保利益の区分が問題になったのは、同じ時点で両者が正の値であるときに、両者の間で残高の一部又は全部を振り替えたり、一方に負担させるべき分を他方に負担させるようなケースであった。負の残高になった利益剰余金を、将来の利益を待たずにその他資本剰余金で補うのは、払込資本に生じている毀損を事実として認識するものであり、払込資本と留保利益の区分の問題にはあたらないと考えられる。なお、会社法では、株主総会の決議により、剰余金の処分として、剰余金の計数の変更ができることとされたが(会社法第 452 条)、会計上、その他資本剰余金による補てんの対象となる利益剰余金は、年度決算時の負の残高に限られる。これは、期中において発生した利益剰余金の負の値を、その都度資本剰余金で補てんすることは、年度決算単位でみた場合、資本剰余金と利益剰余金の混同になることがあるからである。

  

つまり、企業会計においては、資本剰余金と利益剰余金の混同禁止という会計上の原則があるけれども、「負の残高になった利益剰余金」を資本剰余金で補う場合は、その原則の例外として認められている、ということですね。

 

これを踏まえると、会社法452条に定める「損失の処理」とは、年度決算において利益剰余金がマイナスである場合に、そのマイナスの額の限度で、資本剰余金で補填することと解されることになります。

 

〔熊谷 真喜〕